STORY

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ドライバー歴25年

Mさん

あきたこまちが届いた日

「えっ、これから高知ですか?」親孝行の娘さんが、お父様を亡くして気落ちされている高齢のお母様を誘って秋田からはるばる来られた四国・高松旅行。なのに、なぜか旅行会社の手違いで、その日の宿泊地は高知になっていました。私は高松駅で高知のホテルの名前を告げられて喜んだものの、「いや待てよ」。確認させていただき、旅行会社に電話してみても午後5時過ぎなので通じません。暗くなるにつれ不安が増すおふたりに、私は街なかのホテルを予約して差し上げ、何か困ったことがあったらいつでもお電話くださいと、名刺をお渡ししました。翌日娘さんから、旅行会社と連絡が取れたというご報告とともにタクシーで高松を案内してほしいとのお電話がありました。屋島、栗林公園にお連れし、空港までご一緒させていただきました。それから数日後、家に帰るとあきたこまちのお米が届いているではありませんか。秋田の娘さんからのお礼でした。そんなに喜んでいただけたことに、こちらが感謝したくなるような10年前の忘れられない思い出です。お客様のありがとうの気持ちを心の支えにして、私は仕事をしています。楽しい仕事がすべての力になります。

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ドライバー歴1年

Kさん

深夜のミッション・インポッシブル

その男性のお客様は、明らかに疲れておられました。2023年7月、深夜3時。言われた行先は…「帝国ホテル」。「高松に帝国ホテルはないのですが…」と言いながらお客様を窺うとお酒と疲れと睡魔とで、もう一言も発せられないようでした。さぁどうする? 帝国ホテルなんて、行ったことも見たこともない私。似たホテルはどこだ? 老舗のホテルなのではないだろうか?タクシードライバーになったばかりで限られた知識しかありませんでしたが頭を働かせ、「高松国際ホテルではないですか?」と聞いてみました。「じゃあそこまで」…いやいや、明確なお返事ではありません。大丈夫かなと心配しながらホテルにお送りするとエントランスにはホテルの方がいて、その方を待っているようなのです。降りたお客様を見つけると、これ以上はないような丁寧なお辞儀。お客様は「ご苦労さん」という感じでちょっと手を挙げて、入って行かれました。「ああ、ここで間違いではなかったんだな…」と、安堵したような安堵しきれないような思いで、私もお客様を見送りました。ちょうど、高松でG7関係閣僚会議が開催されていた頃です。あれは政府の要職に就くリーダーの仮の姿だったのではないだろうかと私は今でも時々、そのお客様を思い出します。

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ドライバー歴24年

Hさん

車イスでも1人旅。タクシーなら楽しめます

10年前の夏、高松駅でお迎えしたお客様は、関東から電動車いすに乗って、ひとりで高松に来られた方でした。「香川は初めて。こんなに暑いところなんですね」と汗だくでいらしたので涼を感じられる四国らしい場所へと、四国遍路の最後の札所 大窪寺にご案内しお昼はうどんの有名店へとお連れしました。ご提案にとても喜んでいらしたのですが、お見受けするに、おひとりだけでは食事するのも大変そうなご様子でした。私は介護タクシーのドライバーとして介護福祉士の資格も持っています。「食事の介助をして差し上げたほうがよいのでは…」そう考えてお昼もご一緒させていただき、お客様がうどんを口に運ぶのを手伝ったりしました。翌日のご予定を聞くと、なんと飛行機で沖縄に行くのだとおっしゃいます。ホテルもまだ予約していないとのことでしたので街なかよりも便利だろうと思い、高松空港近くのホテルへお連れしました。翌日もお迎えに上がり、空港で沖縄便へのゲートに向かうお客様の後ろ姿を見送りながら無事に次の目的地へと旅立って行かれたことにホッとしました。車イスでもひとりでどこへでも行く行動力。人生を楽しもうとする前向きな姿勢。私が今まで出会った、忘れられないお客様のひとりです。

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ドライバー歴4年

Hさん

「こんなに楽しかったのは初めてや」

配車されてお迎えに行ったJRA。77歳とおっしゃる紳士がお客様です。「10分後の電車に乗るから急いでくれ」。しかしもう無理な時間でした。そう伝えながら「どちらへお帰りですか?」と聞くと「岡山や」。私は冗談半分・期待半分で「岡山まで走りましょうか」と尋ねました。「おっ、頼むわ」。瓢箪から駒、なんと岡山行きが決まったのです。当時、私は入社してまだ6か月、高松市内から出たことはありません。頼りはナビの案内だけ。でも、お客様に不安を悟られたくありません。そんな時に助けてくれたのが音楽でした。年齢から考えて、演歌がお好きではと思って話をすると「石原裕次郎はあるか?」と身を乗り出してこられます。私は瞬時に自分の携帯からBluetoothで裕次郎さんの曲をかけました。好きな歌に身をゆだねてご満悦のお客様。私も落ち着きを取り戻し裕次郎さんの歌を道連れに、お客様を乗せて初の瀬戸大橋を渡りました。しばらくすると岡山駅が見えてひと安心。お客様は降車時に「タクシーでこんなに楽しかったのは初めてや」と料金に加え帰りの高速代、さらにチップまではずんでくださいました。私は、喜んでいただけた嬉しさと、無事到着の安堵のあまりそのまま岡山駅構内を走り、駅の客待ちに並んでしまうほどでした。